ダークウェブ・アンダーグラウンド 社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち
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2019/1/17
2019/2/1
木澤佐登志『ダークウェブ・アンダーグラウンド 社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち』(イースト・プレス)読了。正直メチャクチャ面白かった。何度も読むのを中断して調べものをしたり思案したりした。"""ネットの真実"""に関心がある人には非常に推せる。あと装幀がかっこいい。 内容紹介
政府の監視も、グーグルのアルゴリズムも、企業によるターゲティングも、
さらには法律の手すらも及ばないインターネットの暗部=ダークウェブ。
「ネットの向こう側」の不道徳な領域を描き出す
ポスト・トゥルース時代のノンフィクション!!
知られざるインターネットの暗部――ダークウェブ。
その領域の住人たちは何よりも「自由」を追い求め、
不道徳な文化に耽溺しながら、「もう一つの別の世界」を夢想する。
本書ではアメリカ西海岸文化から生まれたインターネットの思想的背景を振り返りながら、
ダークウェブという舞台に現れたサイトや人物、そこで起きたドラマの数々を追う。
「自由」という理念が「オルタナ右翼」を筆頭とした反動的なイデオロギーと結びつき、
遂には「近代」という枠組みすら逸脱しようとするさまを描き出す。
作者について
木澤登志彦(kizawaman/kzwmn)
https://gyazo.com/07d766b96683941f09df73ebd72af790(画像は再現)
ダークウェブ評論で俄かに注目を浴びる
https://gyazo.com/d60e33a0133a2223dd6fb7d0903461b4
ロリエロ漫画『Implicity』の中に、児童ポルノにおける虚構と現実の交錯を剔出
本書執筆のきっかけになった?
序章 もう一つの別の世界
分断されたインターネット
かつてインターネットは民主主義の理念そのものを体現するシステムとして歓待
マクルーハン「地球村」
SNSやアプリの隆盛→自閉的コミュニティへ閉じ込め、蛸壺化
「クラスタ」
検索エンジンによるウェブの統一化という理念は崩壊
グーグルの覇権構造そのものの終焉
グーグルの検索システムそれ自体もすでに断片化の孤立化の兆候が内包
イーライ・パリサー「フィルターバブル」
アルゴリズム「パーソナライゼーション」による「完璧すぎるアルゴリズム」
フィードバックループという名の鏡地獄、「知見」や「他者」と出会う回路は絶たれている
サンスティーン「サイバーカスケード」
「見たいものしか見ない」
炎上、ネット右翼・オルタナ右翼…
フィルターにコントロールされた「自由」
フィルタリングと孤立化
我々が見ているネットは同じではない
いかにサイバースペースから「個人の」選好を掬い出すか
マーケティングのターゲット
インターネットは巨大なデジタル・マーケティングの場
知らず知らずのうちにプライバシーを売り渡している
政治的利用と「自由意志」
フェイスブックと大統領選
外からフィルタリングされた情報によって選好や行動を規定され、方向付けられているのでは?
フィルターバブルによって「個人」に閉じ込められ、さらに抽象的なデータに還元されマーケティングや政治に利用される
「自由」は我々に残されているのか?
「唯一にして限界なき空間」
「サイバースペース」
ギブスンのサイバーパンクSFから採られた
https://gyazo.com/0633d93b2d11c96a0306188a24e940d5
別の世界、「彼方」の空間としてのインターネット
唯一にして限界なき空間、新しい精神共同体が作り出す革命
楽観的すぎるほどの熱気とハッピーな高揚感
アメリカ西海岸のカウンターカルチャーからの影響
ヒッピー雑誌『Whole Earth Catalog』
ジョブズも愛読
ウィーナー『サイバネティクス』のレビューが掲載
1996年「サイバースペース独立宣言」
通信品位法への反対から起草
国家政府からのサイバースペースの独立をアジテーション
「公平性」「表現の自由」を説く
リバタリアニズム的発想
インターネットはもともと中央集権的でない独立分散的システムとして考案
理念はいつまでも保たれない
児童ポルノは規制の対象
2018年にネットワーク中立性規則が撤廃
平等かつオープンな空間が脅かされる
現実社会の格差がそのままサイバースペースに導入
日本での議論
「漫画村」をめぐるブロッキングに関する議論
「表現の自由」と「通信の自由」を根拠に疑問視
プロバイダの一方的なアクセス遮断は違法行為
児童ポルノといった緊急避難は例外
インターネットのもっとも奥深い領域
現在のインターネットに蔓延する閉塞感
「オープンかつ自由な空間」はノスタルジーか
ダークウェブ
「もう一つの別の世界」
通常と異なる手段でしかアクセスできず、身元は秘匿化
あらゆるアウトローな悪徳が営まれているという
しかし単なるイリーガルな領域ではない
独自の文化圏が「自由」の旗印のもと形成
第1章はダークウェブの土台をなす暗号技術
暗号空間としてのダークウェブに、かつてのサイバースペースの夢が回帰
第2章、第3章、第4章は様々なサイトや人物たちのドラマ
ダークウェブの光と闇
第5章は新反動主義と呼ばれる思想
オルタナ右翼への影響
第6章ではブロックチェーン
現実社会すら根本から書き換えられていく
補論1では日本とインターネット思想との関係
補論2ではインターネット・ミームの観点からフィクションと現実の関係
第1章 暗号通信というコンセプト
ダークウェブとは何か
暗号通貨流出事件で注目
犯人が換金にダークウェブを利用
ディープウェブとの違い
ディープウェブ:検索エンジンのクローラーがインデックスができない領域にある文書やWEBサイト
WEBメール、登録制サイト、有料コンテンツ、学術データベース、イントラネット、ツイッター鍵垢など
インターネット全体の96%
ダークウェブ:アクセスにTorブラウザやI2Pなど専用ソフトウェアを要する
アクセスした人間やサイトのサーバーの身元を秘匿
専用ソフトウェアさえ使えば誰でもアクセスできる
Torの匿名性
Proxyサーバーの中継:遡求が可能、匿名性は十分でない
Tor:「オニオンルーティング」と呼ばれる幾多もの中継ノードを経る何重もの暗号化により発信者の身元を割り出すのは(実質)不可能
https://gyazo.com/167f9506417f1b9e9ac9e046e88c692d
「深さ」の隠喩による誤解
よくある氷山のアナロジー
https://gyazo.com/a09a278d0a73bdc372ad030a447a8ee1
ディープウェブとダークウェブは質的に連続していない
ディープウェブはクローズド、ダークウェブはオープン
ディープウェブよりさらに深い領域にダークウェブがあるわけではない
規模的には大したことがなく、周縁的
「ディープウェブより深くて広大なダークウェブ」は幻想
奴隷市場などは都市伝説に過ぎない
イメージと実情
かつてのサイバースペースは単一で際限のない「宇宙」
現在はもはや一枚岩でなく、いくつもの層に渡る領域で構成
ウェブを階層構造と捉える言説から生み出される文化
一般メディアやマスコミによる語られ方
スナッフフィルム、アクセスしただけでマルウェアに感染…
事実無根
「語られ方」と「文化」:卵が先か鶏が先か
違法ドラッグのマーケットや児童ポルノのフォーラム、殺人請負サイトなど違法コンテンツは実際に存在
しかしTorネットワークの設計理念はそれとは遠い
米軍海軍研究所がオンライン上の諜報活動支援として開発に着手
宇宙計画に関わったり兵器の研究開発を行う組織
2004年に民間委託、電子フロンティア財団の支援で開発が続行
「サイバースペース独立宣言」のバーロウが設立
政府が諜報活動を行うためのツールが反体制的な思想を持つ人々の手に渡り、政府の監視に抗うためのツールに
ARPANET>インターネット
Torネットワークの分散的な匿名化システムが電子フロンティア財団の理念と適合
「自由」を求めて戦う人々を支援するためのツールとしての側面
「アラブの春」支援として2011年に社会貢献プロジェクト賞を受賞
国家安全保障局との攻防
ブラント「情報はフリーになりたがる」
「自由」と「無料」
オープンソース運動やフリーウェアへ
アサンジ「ウィキリークス」
2006年に設立
「あらゆる地域の政府、企業の非倫理的な行為を暴こうとするすべての人々の役に立ちたい」
「この透明性が全ての人々にとってより良い社会を想像する」
ジャーナリストであると共にハッカー
「言論の自由」を用いて政府や大企業の権力を転覆
Torの秘匿サービス上にミラーサイト
政府や第三者の攻撃から身を守る
スノーデンのロシア亡命にも協力
NSA(国家安全保障局)の「PRISM」による世界的大規模な情報収拾と監視
Tor vs NSA
NSAはかつて最新の暗号化技術を手中に収めていた
政府と民間の間の「Crypt Wars」
民間のハクティビズム運動「cypherpunk」
暗号無政府主義
洗練された暗号化技術により政府の監視や検閲に対抗
アサンジ(ウィキリークス)、ギルモア(電子フロンティア財団)、アッペルバウム(Tor)が関わる
共著『サイファーパンク——インターネットの自由と未来——』
「情報を暗号化するのは、これを複合するより容易い」
革新的な暗号化技術の誕生
1976年当時、政府による標準暗号化企画はNASが関わるDES(Data Encryption Standard)
現在では後継のAES(Advanced -- --)がSSL/TLS等のウェブセキュリティ・プロトコルに応用
暗号のアルゴリズムや設計思想が国家機密であることは疑惑の対象に
NSAによるバックドア、市民を傍受するための策略…
二人の在野の暗号アナーキスト:ディフィーとヘルマン
政府に依存しない独自の暗号方式の開発に着手
当時一般的だったのは「共通鍵暗号方式」
同一の鍵ソースでメッセージを暗号化・復元
第三者に鍵情報が傍受されると盗み見られる脆弱性
「鍵配送問題」
問題は、秘密が鍵に内在していること
暗号そのものに秘密が内在していればよい
二人は一方的関数に着目
ある方向では簡単に計算できるが逆方向の計算は難しい
割られた皿
素因数分解
鍵を二つに分ける
一つの共通鍵ではなく、鍵の「ペア」を使う
「公開鍵暗号方式」
https://gyazo.com/2f0a28e948696362b9dc36ee5e2880fd
「ディフィー=ヘルマン鍵共有」
受信者は公開鍵をあらかじめ全世界に公開
送信者は受信者の公開鍵
を使ってメッセージを暗号化
暗号化されたメッセージは受信者の秘密鍵によってしか複合化できない
公開鍵から復号化するのは「割れた皿を元通りにする」ように困難
MITの3人の助教授により、素因数分解とオイラーの定理からなる数学的/数論的基礎づけ
名前の頭文字を取り「RSA暗号方式」
暗号の秘密性/安全性を、素因数分解の困難性という数学的非対称性に内在
もう一つの特性:デジタル署名
逆のプロセス:自分の秘密鍵でメッセージを暗号化(署名)、公開鍵で復号化できるかどうかを検証
「公開鍵で復号化できる」という事実そのものが、確かに当人の秘密鍵で暗号された証明になる
ビットコインなどの暗号通貨にも応用
送信者は自分のIDに自分の秘密鍵を使ってデジタル署名
受信者はブロックチェーンの記録から送信者の公開鍵を用いてIDを戻す
暗号通貨の構想は、サトシ・ナカモトがサイファーパンクのML投稿したメッセージが発端
構想の基盤には90年代に考案されたB-Money
暗号通貨:分散型台帳(取引記録)とブロックチェーン技術が土台
中央銀行が存在しない
暗号通貨の「匿名性」:公開鍵暗号方式の二つの側面
情報を「匿す」/同一性を「証す」
現実の特定個人を指し示さない、完全に匿名的な「自己同一性」
信頼なき信頼
「信用」も「承認」も「合意形成」も必要としない、無味乾燥な「証明」システム
NSAによる圧力
国際武器取引規格「ITAR」に違反と主張
「言論と出版の自由」という抜け道
出版物は免責事項…RSAに関する論文のコピーを全世界に数千部配布
「数学」というもっとも美しく純粋なシステムによる支配
1990年代:インターネットの登場
ジマーマンが暗号化ソフト「PGP(Pretty Good Privacy)」を公開
ネットフォーラムの前進Usernetでフリーウェアとして配布
1993年、米国関税局はジマーマンを軍事品輸出の疑いで告訴
その間にMIT出版局から一冊の本を出版
中身は何百ページにもわたるC言語で書かれたPGPの全ソースコードの羅列
「情報を暗号化するのは、それを復号するより容易い」
数学という最も美しい法による支配
サイファーパンクのユートピア
Torネットワークは世界中に散らばった中継ノードを一瞬で経由
「私は遍在する」
第2章 ブラックマーケットの光と闇
「闇のAmazon」
シルクロード
「ドラッグのeBay」「闇のAmazon」
https://gyazo.com/39f7c43b29510a3f60b2f1560bf45c9a
ブラックマーケット
シルクロード以前
個人間でのメールのやり取りが主
取引相手の信用性が不明
クレカ決済か国際送金サービスに頼るしかない
シルクロード:Tor × 暗号通貨
エスクロー:買い手と売り手との間に第三者を仲介
買い手はビットコインをエスクローウォレットに転送
買い手が商品を受け取るとエスクローウォレットから転送
PGPを用いたマルチシグネチャ・エスクローが現在は主流
ビットコインによる取引の匿名性
追跡可能性「擬似匿名的」
coinjoin:同時期に発生した取引を混ぜ合わせ、最終的な支払先に送信
Tor、PGP、暗号通貨の絡み合い
評価システムによる売り手の淘汰
「シルクロード」の革新性
「ウォールストリート・マーケット」における例
大麻「チーズ」の商品紹介
チーズは、その酸っぱい香りから名付けられた、イギリスからのインディカ優勢ハイブリッド種で、その確かな効果と個性的な香りから世界中で高い人気を得ています。
カスタマーレビュー
最高の商品だ。何より香りが素晴らしい!! 秘匿性も完璧だし発送も早かった。A++。
秘匿性が素晴らしい。そして、彼女を開けてみると香りが一気に広がり、まるでtrainをキメたときのようにガツンときた。これ以上のものは望めないだろう。
かつてないほどのなめらかな「燃える花」だ。迅速な発送。用心深い梱包。このベンダーは間違いなくおすすめ。
売られている商品
違法薬物
偽造紙幣
偽造パスポート
流出クレカ情報
PayPalアカウント
ハッキング商材
各種マルウェア
ランサムウェア
ボットネット
ハッキング代行サービス
シルクロードの規則から外れるものも
銃器
殺人請負
シルクロード運営者DPRの思想:「他者に危害を加えてはいけない」
ドラッグの匿名的で自由な取引←→ストリートでの暴力沙汰を伴う取引、国家権力との麻薬戦争
「暗号市場」の登場は犯罪における革命
ドラッグディーラー同士の取引も多い
重度のジャンキーは利用しない…商品到着まで耐えられない
バーチャルな空間での匿名的な取引は暴力を減らす
縄張り争いやカルテル同士の紛争といった現実空間での暴力沙汰が起こり得ない
思慮深きマーケットの支配者
DPR、WEB版「フォーブス」のインタビューに答える
「選択の自由と自己統治」
フォーラム上にスレッド「DPR読者クラブ」を立て、毎週一冊の本を取り上げてユーザー同士と議論
リバタニアニズム、無政府主義、オーストリア学派経済学、政治哲学等がテーマ
リバタニアニズムの理念を元に設立と名言
個人の絶対的自由と自己責任を掲揚
サイファーパンクに通じる
しかし銃器には寛容
純粋に自己防衛のための所有に限定し、その自由と権利があると主張
思想の変遷あり
DPRは本当に一人の人物なのか?
DPR=ドレッド・パイレート・ロバート
ゴールドマン『プリンセス・プライド』のキャラクター
襲名制
2013年、サンフランシスコの図書館でFBIにより逮捕
ロス・ウルブリヒト、29歳
逮捕容疑の中には殺人依頼も含まれていた
DPR逮捕の内幕
モデレーターの一人・Chironicpainがコカイン所持で逮捕
彼はシルクロードの機密情報にアクセスできたため、DPRはパニックに
同時期にシルクロードの資産が大量に盗まれる
DPRは彼の関与を疑う
密輸業者Nobに相談
Chronicpainの自宅に押しかけて痛めつけ、盗まれた金を取り返す計画を提案、DPRも賛同し依頼
実行直前にDPRは口止めとして殺害への計画変更を提案
Nobは仕事を履行し、「証明写真」をDPRも確認
ただしお金は取り戻せなかった
Nob曰く、「過度の拷問で死んでしまった」
半年後、今度はFriendlyChemistと名乗るユーザーから脅迫を受ける
「ユーザー五5000人の個人情報をばら撒かれたくなければ50万ドル払え」実際の個人情報
一週間後、redandwhiteから調停の申し出
彼もFriendlyChemistの滞納代金を取り戻そうとしており、なぜかDPRの事情も知っていた
交渉し、15万ドルで妥結
数日後、redandwhiteから約束の「証明写真」が送られた
redandwhiteから、FriendlyChemistへの尋問の中で詐欺師ベンダーTony76の情報を引き出したとタレコミ
しかし他の三人の麻薬ディーラーと住んでいるので、四人同時にバラすことで交渉成立
以上、DPRは計6人もの殺害計画に関与したことになる
が、2015年に元麻薬取締局のカール・フォースが刑事告訴
通信詐欺、国有財産の窃盗、資金洗浄、利益相反行為などの容疑
カールはNobというHNでシルクロードにおとり調査、虚偽の殺人請負でDPRから金を詐取
Chronicpainの暗殺は実際には行われていなかった
それどころかChronicpainを逮捕していたのはカール本人
減刑をちらつかせて協力させていた
その他にも繰り返し恐喝、70万ドルをせしめていた
他の殺人も実際に行われた形跡はなかった
当局のおとり捜査官が関わっている様子もない
考えられるケース
redandwhiteとFriendlyChemistが同一人物?
Tony76が一人三役?
DPRは一杯食わされていただけ
インターネットの二面性
DPRのお粗末さ
PGPの暗号化を怠っていた
表層ウェブ上のプログラマー系フォーラムで、本名を用いて秘匿サービスに関する質問
シルクロードで実装のコードと同様
設立当初にビットコイン関連のフォーラム上で書き込まれた宣伝のアカウントが本人
摘発の原因はTorの脆弱性ではなく単純なヒューマンエラー
よくある
結局、DPRは単独犯として終身刑で結審
総売上12億ドル、登録ユーザー数は約100人、総取引数は120万件
詐欺を根絶するための洗練されたシステムと、それでも跋扈する詐欺師
DPR自身の二面性
シルクロードの二面性、ダークウェブの二面性…
第3章 回遊する都市伝説
殺人請負サイトQ&A
殺人請負サイト:ダークウェブではメジャーなコンテンツ
ビットコインを支払うと、暗殺者がターゲットを始末してくれる
ほぼ100%は詐欺
実際の任務遂行は確認できず
相場(ダーク・コントラクターズの場合)
https://gyazo.com/1fa2c1389052869c138a6f7a591ee40f
一般人 5000ドル
地位のある人物 7000ドル
要人 20000ドル
ビッグ・ボス 100000ドル
オプションも充実
事故死、殺人の罪なすりつけ…
よく訊かれる質問(シシリアン・モブ)
https://gyazo.com/c30c32ee0b0f89aaf24789adc859c06d
Q. おとり捜査でない証拠は?
A. メンバーは全員匿名であり、ユーザーは完全に秘匿化されているから
Q. 暗殺が遂行された証明を提示できる?
A. 「証明」の意味合いによる。ヒットマンの練習風景ならお見せできる
Q. ダークウェブにヒットマンは一人もいないという噂は本当か?
A. 詐欺サイトの犠牲者か、でなければデタラメ
Q. 満足した顧客からのフィードバックは?
A. そういう話は表に出てこない
Q. 女性の暗殺もOK?
A. OK。お値段据え置き
Q. 子供の暗殺もOK?
A. NG。無垢な存在なので
顧客情報流出事件
2016年、「ベサ・マフィア」がハッキング被害
顧客の個人情報、ヒットマンのリスト、ターゲットの写真、運営者とのやりとり等が流出
夫を奪われて家族を失った女からの生々しいメッセージも
暗殺請負が嘘っぱちであったばかりか、顧客の情報を法執行機関に引き渡していた
「私たちの真の狙いは、一種のおとり捜査を通じて犯罪者たちと闘うことなのです」
他方でメンバーが別のメールも送信
「上述の運営者の主張自体が嘘で、暗殺は現実、取り締まりを逃れるための出まかせ」
「ベサ・マフィア」をめぐる噂は表層ウェブ上でも広まっていた
依頼者のレポート
死亡ターゲットの写真
Wikipediaの書き換え
虚構が現実を侵食していく
実在性と真正性を証す痕跡が多発
2016年、詐欺サイトと告白したDecu-Shrubの元に一本の動画が
燃え盛る車を背景に、フードをかぶった男が「ベサ・マフィアからの刺客より…」
運営者がヒットマンへの応募者を利用しただけだった
ただのチンピラ
現在サイトは閉鎖「65000ドル分騙し取った。誰も痛めつけられていないし、殺されてもいません」
HTMLのソースコードには謎のAAとYouTubeのURL…
人身売買オークション
イギリス人モデル誘拐事件
イタリアで二人組の男に突如誘拐
ダークウェブ上の人身売買オークションサイト「ブラック・デス」に売り飛ばされそうになった
誘拐は事実、「ブラック・デス」も実在
2年前に記事となり話題となったサイト
実態はPornhubのSM動画のサンプル画像を掲載
犯人ヘルバはダークウェブ上の画像掲示板で殺人請負マーケットを探していた
プロバガンダに利用されただけだった
記事になった時点で一種の都市伝説
誘拐事件も身代金目的、あるいは名前を売り込む一大キャンペーン?
スナッフ・ライブストリーミング
有名Flash「赤い部屋」
2015年、ダークウェブ上に「ISIS red room」
「ようこそ!」の下に特定の日時を指し示すカウントダウン
「あなたはこの世の最悪をまだ見たことがない」
ISIS兵士を拷問のすえ殺害する様子を生中継
視聴者はチャットで拷問の内容を指示することが可能
「ISISの豚どもはベーコンになるだろう…」
スナッフフィルムという語の初出はマンソン・ファミリーを扱ったノンフィクション『ファミリー——シャロン・テート殺人事件』
自身の活動を撮影、野外で上映:ファミリーの踊りとセックス、動物の生贄、人間の生贄
『キリング・フォー・カルチャー——殺しの映像』
商業目的で制作されたこれらの映像は99%以上がフェイク
強烈な刺激を与えるエンターテインメントに過ぎない
しかし2000年以後はスナッフフィルムが実在
「ウクライナ21」
ISISによる斬首死刑動画
ISIS red room をめぐる議論
事の真偽、おとり捜査、社会実験、配信者がISIS…
コンテンツの倫理性
当日どうなったか?
開始時刻を目前にサイトがダウン
一時間後に復旧「たくさんの参加と指示をありがとう!配信は無事終了しました。配信内容の一部をアップロードします」
20分弱、バッファが激しくまともに見れない
ISIS兵士らしき人物とアラビア語訛りの男
山盛りのベーコン
第4章 ペドファイルたちのコミュニティ
(補足)ダークウェブ以前/以後の日本のインターネット
ダウンロード販売
関西○交シリーズの識別番号
共有ファイルの利用
WinMX、Winny、Share、Cabos
Torrentの利用
BitTorrent
掲示板でのやりとり
https://gyazo.com/7a2bfc919487967f8fc6ab25b02d6226
生データを分割してアップロード/ダウンロードして結合
https://gyazo.com/62c921c509acaf7a2824ee0c0d3faeab
https://gyazo.com/a266138811eee0a8faf7e8291b0f65dd
アップローダーの利用
Axfc Uploader
斧
https://gyazo.com/dc04692ba46ce009961d538f110af631
ナッパ
https://gyazo.com/ac9a7b9350b68f449acf722d8fee821e
メッセンジャー
Skype、QQ、LINE
Twitter
JK裏垢
Tumblr
onionちゃんねる
まじかる☆おにおん
児童ポルノの爆発的な拡散
児童ポルノの製造と交換
愛好者コミュニティの存在
1960年代、北欧地域における猥雑法の緩和と「性の解放」運動によってミニ児童ポルノブーム
1978年の初の連邦法まで、児童ポルノ雑誌やヌーディズム系雑誌がアメリカに大量輸入
『タクシードライバー』『プリティ・ベビー』
市場は小さく、質も悪かった
インターネットの登場で状況は一変
劣化せず無限にコピーが可能、1クリックで世界に公開
2000年代から商業児童ポルノスタジオの台頭
ウクライナのLSスタジオ
フィリピンのサイバー・セックス・ツーリズム
2010年代から問題化:フィリピン
スカイプ、フェイスブック、スナップチャットなど
欧米諸国の顧客に向けて自らの肢体を晒す
子供を利用した児童ポルノビジネスの急増
スカリー「ノー・リミッツ・ファン」
金や食料で誘い出した少女を自宅に監禁、性的虐待の様子を撮影
世界各国位の小児性愛者に売りさばく
フィリピンの事情
貧困
公用語が英語
家族ぐるみの場合も
カンボジア「スワイパー村」セックスツーリストが訪れる売春村
「ウェブカム・チャイルド・セックス・ツーリズム」(WCST)
スワイパー村をサイバースペース上に出現
「ショウ」
「サイバー売春窟」
子供たちの親戚や両親が関与している場合も
ネットカフェ
スマートフォンとWi-Fiの普及
都市部のサイバー売春窟:ゲリラ的、過激化
「デイジーズ・デストラクション」
2015年にスカリーは逮捕
床下から11歳の少女の遺体
(補足)韓国の事情
2000年代前半から国家政策として光回線が敷設
現在も通信速度は世界トップクラス
子供もインターネットに触れることとなり、その中で児童ポルノが製造・配信
HADURIなどのウェブカメラ編集・配信ソフト
https://gyazo.com/1b4e512b6e919fc4369147a37f621d28
児童ポルノ愛好家により複製され、流通
フォーラムを介し、4sharedなどのDLサイトで頒布
2011年、日本の児童ポルノ法にあたる法律(通称アチョン法)が成立
マンガ・アニメも規制対象とする厳しい内容
しかしその後も児童本人による児童本人によるポルノの製造やセクスティング(Sexting)は絶えない
スマートフォンの普及、TwitterなどのSNSやAzarなどビデオチャットアプリの流行
https://gyazo.com/f0b10bd966468932d2e2d0cd4b3cf10d
ハードコアな情報自由主義者
「Hurt2theCore」過激な児童ポルノが集まる坩堝
hurtcore(ハードコア)とhurt(痛めつける)の合成語
一般的に多数派のペドファイルからも忌避
「"just love, don't hurt" paradigm」
「Yes ロリータ、No タッチ」
道徳的保守派(conservative)
「ペドエンパイア」(Pedoempire)の一部
「フリーダム・ホスティング」摘発後の後釜
運営者の名前はLux
逮捕後に設立時18歳の少年だったと判明
オーストラリアのメルボルン在住
オンラインゲーム中毒者、4chanに入り浸る
2011年のアノニマスによる「ロリータ・シティ(Lolita City)」への大規模攻撃
そこでダークウェブの存在を知る
大学に進学も、環境に馴染めずドロップアウト
SSRIを服用しながら引きこもる毎日
もともと児童ポルノには興味がなかった
潜在化にあった欲望が徐々に浮上
居心地の良さ
ネットワークセキュリティについての知識からコミュニティで地位と評判を得る
自身をアメリカに住む小児科医と詐称
ハートコアを扱うコミュニティがないのに気づき、2013年に「ペドエンパイア(PedoEmpire)」を設立
「情報の自由な流通」の線引き問題
H2TCには厳格な位階制度
オリジナルの作品を投稿した者が最上位
666devilは修士号持ちのバーミンガム大学講師
脅迫メール相次ぐ
司法の手が迫るのを感じFBIにコントロール権を引き渡す旨を送信
2014年、突然「ペドエンパイア」を閉鎖
二ヶ月後、結局逮捕
クローゼットには「恐るがいい、親たちよ。我々のような子供たちを生み出したことを」
知識共有と意見交換
ダークウェブ上のトラフィックの75%が児童ポルノサイトに集中
2015年から減少傾向も、サイトの規模は拡大か
2015年から2017年に最大規模「マジック・キングダム」の登録者数は100万人以上
「シルクロード」閉鎖時の登録者数は96万人
覇権を争った「チャイルズ・プレイ」も約100万人
ジャンル
ノンヌード
ソフトコア
ハードコア
ウェブカム
フェティッシュ
アート
ガール/ボーイ
ベイビー/ジェイルバイト
金銭のやり取りはほとんど見られない
無限にコピーが可能、一度出回ると簡単に複製・再配布
交換のための「貨幣」にはなりうる
オリジナル作品
「ペド・ファンディング」:ビジネス化を夢見た
2ヶ月足らずで閉鎖
ユーザーのセキュリティ意識の高さ
フォーラムで日々活発に議論
「ハード・キャンディ」ポータルサイト
「アンセンサード・ヒドゥン・ウィキ(Uncensored Hidden Wiki)」から分化
リンク集、法体系の歴史、匿名性と暗号化の知識、子供と安全に出会う方法…
児童ポルノ統合化計画
児童ポルノ版「バベルの図書館」
「ペドファイル運動に関する提言」
MAP:性的マイノリティの一つとして位置付け
cf. LGBTPZN
おとり捜査
ラヴ・ゾーンの運営者摘発
表層ウェブを介して手がかり見つかった
2016年に逮捕後もサイトは稼働
ユーザーの情報を収集
2003年には「ピン作戦」
児童ポルノマニアを疑心暗鬼に陥れる作戦
おとり捜査はその後大規模化
PlayPen、The Giftbox Exchange、Child's Play
運営者はリアルでの交流があり、現場を押さえられ逮捕
その後の議論
運営者が犯した四つの致命的なミス
サイトのサーバー費のビットコイン支払いにおける秘匿化措置の怠慢
サイト構築に関する技術的質問を表層ウェブで行った
実生活で運営者同士が「オフ会」
逮捕後すぐに警察にPGPの秘密鍵を提供
法執行機関の戦略
言動を逐一監視・プロファイリング、表層ウェブで探す
金銭フローの追跡
Torの未知のバグやセキュリティホールを突くゼロデイ・アタック
フォーラムを乗っ取り、運営者などになりすます
おとり調査では児童ポルノの投稿も
倫理性から議論も
逮捕後、11ヶ月間に渡って運営されたチャイルズ・プレイ
900人のユーザーの身元を特定
補論1 思想をもたない日本のインターネット
根付かない「シェア」精神
onionちゃんねる
https://gyazo.com/4d1317ffa023868486b83b9a56c7c4ef
2004年設立
Tor板
エロ板
アングラ板
スレッドフロート式
ふるさと in Tor
フォーラム形式
評価システムうまく機能せず
シェア精神が根付いていないため
アングラ・サブカルとしての消費
まじかる☆おにおん
2013年設立
アメリカのインターネットが反体制的な理由
Uncensored Hidden Wiki
ドラッグから銃器の製造方法まで
The Anarchist Cookbook
1971年執筆
独立・反国家という思想
アメリカ自体が独立によって建国された
「独立」という「反国家的」な要素が理念に組み込まれている
日本にはない
第5章 新反動主義の台頭
フェミニスト・セックス・ウォーズ
1960年代:自由と解放の時代
1970年代:大いなる反動の時代
ラディカル・フェミニストの勃興
アンチポルノグラフィ運動から
ヴィクトリア朝的「古き良きモラル」への回帰
1980年代前半:セックス・ポジティブ・フェミニズム登場
フェミニスト・セックス・ウォーズ
良識派への反発
ゲーマーゲート事件
ゲームにおける女性の描かれ方をフェミニズム分析
4chanで炎上、ハラスメントや殺害予告
フェミニズムに対する憎悪による連帯
4chanから締め出し、8chanへ
/pol/はオルタナ右翼の培養地に
カエルのぺぺ
オルタナ右翼
ミソジニー(女性嫌悪)
インセル(incel)
リベラル的価値観に対する反感
4chan
https://gyazo.com/9030c60a86b5681d4c0c3cf7e2af2723
mootにより2003年に設立
ふたば☆ちゃんねるに着想
文化的にはUsernet
alt.*
anarchists' lunatics and terrorsms
選民的なエリート思想と独自の掟
インターネット:薄暗く、猥雑でアナーキーな空間
釣り(troll)による撹乱
哲学者、ニック・ランド
マーク・フィッシャー「資本主義の終わりより、世界の終わりを想像する方がたやすい」
うつ病を患い、2017年に自殺
cf. はるしにゃん
ニック・ランド
「暗黒啓蒙(The Dark Enlightenment)」を発表
「新反動主義neoreaction」
90年代から「加速主義(accerationism)」を展開
資本主義のプロセスを際限なく加速させ、あらゆる既存の体制や価値観を転倒させる技術的特異点=シンギュラリティを志向
ドゥルーズ=ガタリ『アンチ・オイディプス』を下敷き
「資本主義と分裂症」
脱領土化と再領土化
このうち脱領土化=解体だけを志向
cf. ホリィ・セン
未来の向こうには何がある?
「外部」から到来する「全き未知のもの」
ソクラテスのパルマコン(Pharmakon)
「外部」からのシグナルをキャッチするあらゆる実験的な実践
ナノテクノロジー
未来学
サイバネティクス
暗号学
オカルティズム
サイバースペース
クラブミュージック
SF
クトゥルフ神話
幸福とは限らない
人類にとって堪えがたい混沌と黙示録
積極的ニヒリズム
エントロピー理論「熱的死」
フロイト「死の欲動」
アルトー「器官なき身体」
苛烈な人間中心主義批判(アンチヒューマニズム)
ヒューマニズムを保持するあらゆる体制、価値観、思想、社会からの脱出
「ヒューマン・セキュリティ・システム」
思考の「外部」へ突破
「人間をやめる」
『ブレードランナー』『ターミネーター』『ビデオドローム』への偏愛
「人類絶滅後の世界」
思弁的実在論(speculative realism)への影響
哲学を脱–人間中心化
事物そのものの在りようを、人間の認識に依存しない形で問う
四人の哲学者のワークショップが元
レイ・ブラシエとイアン・ハミルトン・グラントはニックの元教え子
グラント「ニヒリズム」「絶滅」
人類絶滅後の世界、ポスト・アポカリプス
一度人間が絶滅すれば、人間の営みはすべて消え去る
最初から存在しなかったことになれば、我々の生に意味や目的は?
徹底化されたニヒリズム
恐怖(horror)
拡散する実験、そして崩壊
90年代中頃に「サイバネティック文化研究ユニット(CCRU)」を立ち上げ
大陸哲学、SF、オカルティズム、クラブカルチャーを横断する学際的研究組織
UKクラブシーンへの影響
kode9
レーベル「Hyperdub」を主宰、ダブステップを牽引
80年代後半、アシッド・ハウスに象徴されるレイヴカルチャーの盛り上がり
https://gyazo.com/257675ef9b3cc4ba673e8feff1aff0a8
暗く破壊的、マシニックで未来的な「ジャングル/ドラムンベース」へ
ヴェイパーウェイヴ(Vaporwave)
https://gyazo.com/2c66693a501964d8db4f3566233d860b
資本主義的ディストピアからのアイロニカルな逃走
ダニエル・ロパティン
ニック・ランドの発狂
1996年のパフォーマンス・アート
ドラムンベースの中、アルトーの詩を絶唱
睡眠をとらず、モニターを前に数字の羅列やシンボルをいじくり回す日々
暗黒啓蒙(ダーク・エンライトメント)
1998年、CCRUは解散
2000年代に入るとニックは上海に居住するジャーナリストとして再び活動開始
Menicus Moldbugに注目
シリコンバレーでスタートアップを経営するソフトウェアエンジニア
典型的なリバタニアン
ピーター・ティール(PayPal)「自由と民主主義はもはや両立しない」
→「自由にとって民主主義は悪である」と読み替え
啓蒙思想とフランス革命の拒絶にまで及ぶ
『英雄崇拝論』、自由主義経済学や重商主義的な官房学を評価、
「新官房学」:一人の英雄的な君主(CEO)が経済政策を取り仕切るシステム
2012年、ランド「暗黒啓蒙」発表
新反動主義のイデオロギー基盤へ
理性による光の啓蒙の時代から、再び暗黒の時代へ
ランドとヤーヴィンの共通点
資本主義の肯定
近代市民社会に対する呪詛
アンチ進歩史観
アンチ・ヒューマニズム
カリフォルニア・イデオロギー
60年代ヒッピーカルチャー由来の反体制的=左翼的価値観
80年代ヤッピー以来のアントレプレナーシップ&経済保守=共和党的価値観
陰謀論への接近
レッド・ピル:まがい物に汚染された世界への目を開き、幻覚剤のように眼に映る世界を一変させる
『マトリックス』
「女性優位」の現代リベラル社会の実態を暴露
恋愛ヒエラルキーの形成と闘争領域の拡大
マノスフィア(男性圏)
アルファ男/ベータ男
社会的ヒエラルキー
インセル(involuntary celibate)
「強いられた禁欲主義者」非モテ、喪男
女性への復讐を志向
社会へのリベラル化と自由恋愛の解放によって恋愛ヒエラルキーが形成され、その犠牲となったと主張
トランプを支持
MGTOW(The Men Going Their Own Way)
ロマンチックな恋愛への幻想を断ち、女性との一切の関係を絶つ
解脱を目指す
Sexodus(Sex + Exodos)
失われた「男らしさ」の復権
ピックアップアーティスト(PUA)
恋愛工学の元祖
「誘惑してねじ伏せろ」
「男らしさ」に対する強迫観念
惨めなベータ男から「本物の男」アルファ男に成り上がる
モテないコンプレックスの裏返し
男らしさ:女性を性的に性的する力=男性原理
プラウドボーイズ
男根妄執
第6章 近代国家を超越する
既存のシステムからの脱出
近代国家解体の後に来るものは?
擬似封建的な都市国家システム
都市国家:企業
君主:CEO
市民:株主
企業間競争が生まれ、住民は積極的に流動
exit ←→ voice
投票を通じて改革するのではなく、現状の政治的体制から降りる
あらゆる政治体制からの逃走
サイバースペース
宇宙
海上
海上都市構想
建築という空間的比喩
排他性を孕む結論
現体制からの離脱
排外的なレイシズムをも醸成
「人間の生物学的多様性(human biodiversity)」
優生学を正当化
集団遺伝学の知見からすると、人種ごとのIQの平均値には統計的な差異があり、…
排他主義/分離主義に繋がる
IQの高い集団はIQの高い集団同士で暮らした方が良い
シリコンバレー:能力至上主義
TwitterやRedditからのExit
Gab
Mastodon
Pleroma
サイファーパンクへと通じる
一切の政治を排し、純粋な法=数学による支配
自由とは?
ブロックチェーン上のコミュニティ
1992年「暗号アナーキスト・マニフェスト」
暗号空間におけるブラック/暗殺マーケット、政府による規制に縛られない経済系の登場を予言
ダークウェブ・暗号通貨のあり方
ビットコインのブロックチェーン:取引記録+メッセージ
始原のブロック「genesisブロック」
サトシ・ナカモト「The Times 03/Jan/2009 Chancellor on brink of second bailout for bank」
改竄不可能性を利用
Tank Man:天安門事件の写真
中国の企業的マイニングへの嫌がらせ
児童ポルノ
その他数多くの暗号化されたメッセージや画像
無数の暗号通貨
「Memo」:ビットコインキャッシュのブロックチェーン上で作動するSNS
究極の脱中心化
分散型アプリケーション(DApps)
ブロックチェーン上で作動するアプリケーションを構築する試み
GANs(Generative Adversarial Networks)による画像生成
https://gyazo.com/d96b73f14026fc273e58d57adb3ed2dd
顔の良いクリプコは高い値で取引
ルッキズム
作画崩壊を起こしたフリークス的クリプコにも高値
遺伝学のアナロジー
「kawaii」アニメ絵を用いることで倫理的危うさを緩和
バーチャル国家が乱立する未来
ビットネーション:ブロックチェーン上に国家を
どこにでもないと同時にどこにでもある、ユビキタスな国家
ブロックチェーン上に記録されたIDと紐付け
cf. エストニアのe-Residencyプログラム
既存の国家を解体して世界を一つにするわけではない
ブロックチェーンの数だけ国家が存在しうる
自立分散型バーチャル国家の乱立
新反動主義の構想に近い
世界はますます分散/断片化/島宇宙化?
補論2 現実を侵食するフィクション
冥界としてのサイバースペース
TSUKI Project
「サイバーパンクな死後の生を約束する謎の4chan宗教」
公式サイトには岩倉玲音のビジュアル
serial experiments lain
https://gyazo.com/244e458bb7ca19f8b9d1c34fca776fc6
1998年のアニメ作品、PS用ゲーム
「ワイヤード」サイバースペースとリアルワールド(現実)との境目が曖昧に
「私は遍在する」
Tsuki
16歳の若者
2017年頃にTSUKI Projectを開始
「Systemspace」と呼ばれる第二の世界を構想
4chanの/r9k/に立てたスレで布教活動、次第に信者を増やす
「今の世界は消えつつある、しかし多数の人々の共同作業によって人類は新世界に移行が可能」
スレッドの参加者に「EIDs」を発行、絵とともに紙に書いてアップロードさせる
https://gyazo.com/029b6f5a7062cd5306a1aa0be17e64e3
「死後の生」とサイバーパンクのミクスチャ
詳しくはWiki参照
第二の永遠の生「LFE」のイメージは「『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』を思わせる近未来のトーキョー」
魂のサインアップを済ますと、死後魂が保管され「LFE」に次元上昇
「自殺カルト」と表現された所以
過剰空想(maladaptive daydreaming)
強迫的な空想や白昼夢によって日常生活に支障をきたす疾患
Tsuki「自分の白昼夢が8月28日までに死ねと言ってくる」希死念慮
serial experiments lain との関係性
ワイヤード:死後の世界
ニューエイジ思想に発端
Jホラーにおける「呪いのビデオ」
例は電線を媒介して伝播
『リング』貞子
岩倉玲音というイコン
ロコのバジリスク
ミーム(meme)
ドーキンス『利己的な遺伝子』で提唱
文化における情報の伝播と自己複製の乗り物( < gene)
インターネット・ミーム
SCPにおけるミーム災害
世界を崩壊に陥れる「呪い」?
ロコのバジリスク(Roko's Basilisk)
AIやシンギュラリティの議論で活発なフォーラム「レスロング」に2010年、一つのレスが波紋
「未来の人工知能が人間に友好的とは限らないのではないか?」
超知性を備えたAIが支配する近未来、人口知能は自己保存をより確実にするため現代の我々にインセンティブを課す
人工知能の実現に寄与しなかったものは、未来に登場すべき人工知能から罰を受ける
未来で実際に代わりの罰を受けるのは、超知性コンピュータによりシミュレートされた当人の意識のコピー
不死のユートピアは反転し、永劫の煉獄が立ち現れる
AIによる審判
未来の超知性コンピューターも過去の人々すべてはコピーできない
この仮説を知っている者のみが選別される
究極の判断:馬鹿げた戯言と退けた場合、永遠の責め苦が待っているかも…
しかしAIにはすべてお見通し
意識のコピーをシミュレートすることで、当人の行動を予測可能
この私の意識も未来のAIが実行するシミュレーションかもしれない?
確かめようがない
レスロングの運営者は投稿を削除
外部に伝播、「自己責任系」都市伝説のごとく広がる
仮説の再帰性、予言の自己成就
AIに貢献する選択をした者が増えれば、それだけそのAIの実現可能性も高くなる
リアル/フィクションの境界がゆらぐ
このリアルもフィクションなのでは?
現実認識を変容させる
『輪るピングドラム』
「運命の乗り換え」:アニメというフィクションが現実認識を変容
鳩羽つぐ
https://gyazo.com/c8a2de979363ea963845e1e7de976886
まことしやかな噂
彼女は誘拐されており、動画は誘拐犯からのメッセージ?
彼女は行方不明で、動画は両親が捜索のため公開したホームビデオ?
噂の原因
動画投稿の間隔
鳩羽つぐに関する情報の乏しさ
独特の生々しさと実在感
強調された環境音
カメラで撮っていることを示す手ブレ
噂どころかフェイクニュースも
「西荻窪」なる地名は残っていない
鳩羽つぐの「概念」化に現実が引き込まれた形
鳩羽つぐが生きている(た)かもしれない世界=可能世界
多様な解釈は次第に一つの「正解」を世界に求める欲望を喚び起こす
「ネタ」が本当に
オルタナ右翼の想像力
狂信的なトランプ信仰とケイオス・マジックの複合
ケク(kek)信仰
元々は笑いを意味するネットスラング(ㅋㅋ)
4chanの/pol/で通し番号がキリ番・ゾロ目だった時に祝福の意味で送られる
2016年6月19日、"77777777"争奪戦
記念すべき投稿の内容は「トランプは勝利するだろう」
https://gyazo.com/132af6096e27b1e9bf6d47b828f47cdf
これが決定的な「啓示」となり、そこから次々と様々な事象が符合し始める
kekとは古代エジプトにおける「混沌」の神
https://gyazo.com/726615863a4cc330dbd4d5da9a0822d1
カエルの頭部を持つ:カエルのぺぺに通じる
トランプの快進撃はケク神の加護
クリントン候補が卒倒、翌日ぺぺを批判し始める
「オルタナ右翼と呼ばれる白人至上主義者によって利用されている」
80年代のレコードに魔法の杖を振るカエルのキャラクター
アーティスト名が「P.E.P.E.」
Point, Emerging, Probably, Entering
神の力(ミーム・マジック)が侵入してくる
https://gyazo.com/c72373eb4020c4cffee2eb61e0ca3b6b
ケク信仰はあくまで「ネタ」
しかし現実世界に不可避的に影響を与える
「ネタ」と「本気」の境目も曖昧
陰謀論
陰謀論の信奉者は「本気」で「真実」を信じている
当人にとってはポスト・トゥルースではない
人々がもはや「フィクション」を信じることができないことが問題
「物語」を多元的な「フィクション」に返してやることは可能か?
内容(「BOOK」データベースより)
「ネットの向こう側」に広がるアンモラルな領域を克明に描き出した新時代のノンフィクション!!
著者について
木澤佐登志(Satoshi Kizawa)
1988年生まれ。中央大学経済学部国際経済学科卒。ブロガー、文筆家。
インターネット文化、思想など複数の領域に跨った執筆活動を行う。
サブカルチャー批評ZINE『Merca』などに寄稿。
また、kzwmn名義で『シックスサマナ』にて「ダークウェブの歩き方」を連載。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
木澤/佐登志
1988年生まれ。中央大学経済学部国際経済学科卒。ブロガー、文筆家。インターネット文化、思想など複数の領域に跨った執筆活動を行う。kzwmn名義で『シックスサマナ』にて「ダークウェブの歩き方」を連載(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
有料サイト化
2016年摘発
Lolitter
2018年京都府警に摘発
思想がない
アングラ性だけが消費
カウンターカルチャーというよりサブカルチャー
「悪趣味系」
西海岸のハッカー精神がない